みかん畑
みかんを食べていて、ふと思い出したことがあった。
もう15年以上前、私は「だんぢり祭」で有名な岸和田市に住んでいた。
故あって仕事を辞めて無職の時期があった。私は体質的に寝付きが悪く、寝起きが悪い。ので、予定のない休日は前日朝方まで起きていて、目覚めたら夕方、なんてことになりやすい。
容易く昼夜逆転生活に陥ってしまい、そうなると社会復帰が難しくなると考え、私は仕事をしてなくても朝5時に起きる、と決めた。
その頃の私はまだクライミングと出会っておらず、山登りに夢中だった。早起きして毎朝山登りをしようと考えたのである。
私の住んでいた岸和田は海も近いけど山も近い。自転車で麓まで走って和泉葛城山や岩湧山によく登った。
同じところを登るのは飽きてくるので、そのうち登山道から逸れて登ったり、地図で目的地を決めて無理やりヤブ漕ぎしたり、敢えて地図を見ないで疑似遭難したりして毎朝楽しんでいた。
そのうちうろつくフィールドは先の和泉葛城山や岩湧山から、その前衛に当たる神於山付近に変わった。神於山は300mに満たない低い山だが、雑木林が多くて彷徨っていて楽しい。
また、里から近いせいか、森の中にも関わらずふと苔に覆われた石垣や、錆びた機械が唐突に現れて、それも楽しかった、
また、標高が低くてなだらかな箇所が多く、そういう所は地図を見ていても分かりにくく、現在地をよくロストし、疑似ではなく本当に迷ったりした。
今ではGPSがあり、すぐに現在地が分かるが当時はそんな便利なものはない。迷ってしまうと一抹の不安と何故か湧き出るワクワク感。
しかし「遭難」しても無理やり下りていけば一時間ほどで道路に出る。昼にはハローワークに行かないといけない。あまり楽しんでばかりもいられないのだ。
そんな感じでまた森を彷徨っている時。ふと、視界が開けた。漂う甘い香り。みかん畑だった。ちょうど冬で実がなっていた。
しかし、もう長い間放置されているようで、全く手入れされておらず、実もたくさん落ちている。これ幸いと10個程甘いみかんをいただき、下山した。
その後「秘密のみかん畑」に再び訪れようとしたのだが、結局一度も行けずじまいだった。
そのうち就職し、徘徊はしなくなった。あれから随分経った。あのみかん畑は今でも人知れずこの時期には甘い香りを漂わせているのだろうか。
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