山とクライミング。
今年も暖かくなり、バイクに乗る時に手袋をしなくなった。
先日の朝、寒かったので手袋をはめた。その時、ふと、思い出した。この手袋…
バイク用に使っている手袋は右手の人差し指と親指が出るように切れ目を入れてある。
これは破けたわけではなく、自分でハサミで切ったのである。なぜか。それは手袋をはめたままカメラを操作するためなのである。
11年前の2月、私は一人で北アルプスの蝶ヶ岳に登った。山岳会に入る前で知識も装備も自己流で不確実なものだった。
この頃の私はまだクライミングを始める前で、風景写真を撮るのに夢中だった。この時も蝶ヶ岳から望む穂高連峰と槍ヶ岳の撮影をしたい一心だった。
今と違ってインターネットの情報も少なく、全部自分一人でやるものだから不安もいっぱいだった。
薄着で金剛山に登ってそのまま一晩過ごしたり、一日何も食べないでいたりとかの訓練(?)をしたりしていた。
そういえばこの時は郵便配達をしていたので、防寒着や手袋を着用しないで仕事をしたりもしていた。
とても大変だったし、今思い返しても我ながら(ようやるわ)と思う。それを支えていたのはひとえに“情熱”だった。
今、夢中になっているものは写真や登山からフリークライミングに代わった。
別に山登りが嫌いになったわけではないし、山や写真を続けながらクライミングもできると思う。
しかし、ある時クライミングでさらに上を目指すには時間が足りないと感じ、山には登らなくなり、撮影機材は処分した。
同じ理由で長らく続けていたオーケストラも辞め、楽器も売った。
現在余暇のほとんどをクライミングに費やしているが、それでも果たして当時と同じだけの情熱があるか、といえば自信がない。恐らくないだろう。
なにしろあの頃は(あの景色が見られるのなら指一本くらいなくなってもいいかな)くらいの想いというか覚悟があった。
本当に、あの膨大な熱量はどこにいってしまったのだろう。
よくもまあ、こんな手袋、コーナンで500円で買った手袋であんな寒いところに行ったもんだな、と懐かしく思った。
http://app.f.m-cocolog.jp/t/typecast/1267460/1285717/56625652
この景色は未だに色褪せることなく、私の瞼に焼き付いている。