フィルム写真のこと。
昨晩、寝る前のウトウトしている時。
最近なら大体「ドルフィン」のムーブ(日にちが経ってだいぶ定かではなくなっている)のおさらいをしているのだが、昨日は「カメラのキタムラ」の店員が出てきた。
このキタムラの店員は、私が写真に夢中になっていた頃、お世話になった方で、随分迷惑も掛けた。
写真を始めた頃は、プリントを店でやってもらっていた。
自分の思っている色でなかった時は、やり直してもらった。
3度、やり直してもらったこともあった。
やり直しは無料である。店員は泣きそうな顔になっていた。
プリンタを買って、自分でプリントするようになってからは、店ではフィルムの現像のみ頼んだ。
きっとあの店員は、ほっとしていたに違いない。
「あの店員」と言っているが、キタムラには勿論、何人か店員がいる。
しかし、私の相手をするのは、決まって「あの店員」だった。
初めの頃は当然、色んな人が対応していたと思うが、あまりよく覚えていない。
いつの間にか「あの店員」が私の担当になっていたようである。
恐らく私が難癖をつける「邪魔くさい客」だったので、気の弱そうな、しかし爽やかな笑顔の兄さん・「あの店員」が、私の担当に押し付けられたのだろう。
当時、私は“銀塩フィルム”にこだわっていた。
別にデジカメでも良かったのだが、機材を再び買い揃える資金がなかったのと、“潔くない”という点で、フィルムカメラを使い続けていた。
デジカメの何が“潔くない”か。
それは、後の加工がいくらでもできてしまう点である。
今はきっと、デジカメも技術が進歩して、加工しなくても、ほぼイメージ通りの写真が撮れると思う。
しかし、以前のデジカメは、後の加工が当たり前だった。
私は広告の仕事をしていて、写真の加工はまあ、人並み以上にできる。
一応、プロだったわけだし。
しかし、それができてしまうと、写真が“嘘”になってしまう、と、そう考えたのである。
人の“イメージ”は結構、都合良く変わってしまう。
それが良い思い出ならば、特に。
(あの時の景色はもっと、素晴らしかった)
(夕焼けはもっと、赤かった)
(空はもっと、青かった)
そんな色、憶えていられるはずはないのに。
その点、フィルム、特にラチチュード(露光の範囲)の広いネガフィルムではなく、狭いポジフィルムは、かなりシビアである。
ラチチュードが狭いが故に、コントラスト(明暗差)が強くなってしまうが、私はその点も気に入っていた。(被写体にもよるが)
そしてフィルムは、現場で確認ができない。
(ひょっとしたら、失敗しているかも知れない…)というドキドキが、現像が仕上がるのを見るまで続くのである。
家で、ライトに照らされたフィルムを見る時のドキドキ感。
その時、思い通りに写っていた時の喜びは、フィルムならではと思う。
ちょっと戻って、再びキタムラの「あの店員」。
現像の上がったフィルムを最初にじっくり見るのは、もちろん家だが、実は一番最初に見るのは、お店である。
本当にこのフィルムですか?の確認をするのである。
10本現像を頼んでいたら、店員が「このフィルムですか?」と1本をライトアップして見せてくれる。
合っていたら「間違いないです」と答え、後の9本は見たい人は見ればいいし、別に確認不要ならそのまま持って帰る。
私はいつも、1本だけ見て、他はフィルム番号のみ確認していた。
その見せてくれる1本。
「あの店員」はいつも、私の「自信作」の1本で確認するのである。
勿論、店員に私の自信作が分かるはずがないのだが、決まってそうだった。
きっと、「あの店員」は、私の撮ったフィルムを全部、見てくれていたのだろう。
そして一番よく撮れているフィルムを選んでおいて、それを確認の1本にしてくれていたに違いない。
嬉しかった。
そのうち、「よく撮れてますね」とか「これ、どこなんです?」と声を掛けてくれるようになった。
話すのが苦手な私は、きっと無愛想だったに違いない。
寝る前に「あの店員」が出てきたのは、きっとジム終わりにみゆさんと少し写真の話をしたからやな、きっと。
さっき久しぶりに、厳冬期の蝶ヶ岳に登った時のアルバムを見た。
朝陽を浴びて紅く染まる穂高の峰々。
“一度でいいから見てみたい”と念じていた景色。
その、圧倒的な景観を前に、シャッターを押し続けた。
分厚い手袋だと露出調整やらが上手くできなくて、素手で写真を撮り続けた。
そのうち、指先が痛くなっても(指一本くらいなくなってもいいや)と本気で思っていた。
痛さからか、感動からか、泣いていた。それも号泣である。
若い。
あの頃の写真への情熱。雪山への情熱。今はもう、ない。
でも、写真を撮るのは好きだし、山登りも好きである。
いつか、お金に余裕ができたら、フィルムカメラ買おうかな。
一生無理そうだが…
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