« 爺ヶ岳南尾根より鹿島槍ヶ岳(1) 2011年3月18日〜20日 | トップページ | 貝塚・二色浜海岸 2011年4月1日 »

2011年4月 5日 (火)

爺ヶ岳南尾根より鹿島槍ヶ岳(2) 2011年3月18日〜20日

凄い風だ。
雪煙が渦を巻いて空へと舞い上がっていく。
鹿島槍ヶ岳の前衛峰、布引山へは長い登りである。
荷物が軽くなったとはいえ、疲れた足には堪える。
本当に、過酷な登りだった。
登るにつれ、さらに風は強まっていく。
まだ、これ以上強くなるというのか、と感心してしまうほどの烈風である。
もはや、普通に立っていることもできない。
もし、風に掠われたら。
風下、右側には張り出した雪庇が見える。その向こうは…空中である。恐らく深い谷だろう。

05381226b_2
大きな雪庇。

05381222b_2
雪煙。

いつの間にか独特の歩き方をしていた。
右足、つま先を風下に向けて一歩。
左足、つま先を頂上方向に向けて一歩。
右手に握ったピッケルを突き刺す。
これを素早く行い、風に背を向けた耐風姿勢で休む。

山頂を見る。頂はガスに覆われて見えなかった。
(なにもこんな時に山に行かなくても…)
オレだって、そう思う。本当に、そう思っている。
しんどい。辛い。苦しい。寒い。寂しい。怖い。
そして、いつもは感じるはずの、ぎりぎりの充実感も、今回は感じない。
全く、楽しくない。

布引山を越えた。
最後の登りは雪が飛ばされ、地面が見えていた。
岩を掴みながら這うようにして登った。
16時13分、鹿島槍ヶ岳南峰、登頂。
達成感は、なかった。
感動も、ない。

R103152711031820
鹿島槍ヶ岳頂上到着。

山頂は相変わらずガスに覆われていたが、時折ガスが流れて青空が見えた。
バンダナショットを撮ろうと試みたが、強風のためうまくいかなかった。
五竜岳へと続く稜線を見てみようという気持ちも湧かず、すぐさま下山を始めた。

R103153311031820
バンダナショット、失敗。

05381213b_2
烈風の尾根。

R103154511031820

05381219b_2

下山は早い。
相変わらずミスの許されない、緊張の連続ではあるが、
登る時と違い、高度を下げるにつれ、風がだんだん弱まってくるのが分かる。
布引山を再び越え、おおかた下りてくるとようやく気持ちにゆとりが出てきた。
日の没する西側の景色がきれいだった。
冷池山荘は樹林帯にあるため、展望があまりよくない。
この辺りで夕景の写真を撮り、18時に小屋に戻った。

05381209b_2
剱岳は雲に隠れてしまったが、雲間から光が差す光景が見られた。

05381207b
爺ヶ岳に最後の光が差す。

05381204b
いわゆる“天使のカーテン”

06381031b
鹿島槍方面。ピークはずっとガスに覆われたままだった。

小屋内にテントを張り、コンロに火を点ける。
ようやく人心地がついた。
昨晩に続き、チキンラーメンを作る。
依然、食欲はなかった。この日も朝からほとんど何も食べていない。
お菓子少々とカーボショッツ1本。
それなのに、チキンラーメンを半分も食べると吐き気がしてきた。
我慢して全部食べる。後は昨晩と同じように小説を読み、眠りに就いた。

目が覚める。また23時半。
(またか。またなんか。)
長い夜を思うとうんざりした。
iPodを出して音楽を聴く。
色んな考えが頭に浮かぶ。なかなか眠れない。眠ったのは、たぶん朝方。

20日朝。また少し寝過ごした。
カメラを持って外に出てみる。晴れていた。
やはり展望は良くなく、木が邪魔して鹿島槍や剱岳は見えない。
少し、北へ登るか、南へ下るかしたら朝陽に染まる鹿島槍や、剱が見られたかもしれない。
しかしその気は起こらない。
以前まですごく見たかった光景。
今回の山行は、そもそもそれを見たいがために計画したはずだったのだが。

06381015b
朝。

06381018b

06381017b

06381006b
頸城山塊。

06381002b

何枚か朝の風景を写真に収め、小屋に戻って下山準備。
8時、お世話になった冷池山荘を後にした。
来た時と同様、最初は樹林帯のラッセル。
ただし、ワカンを着けていたし、トレースも残っていたので、登りの時ほど苦労はしない。
それでも冷乗越に着いたのが8時38分、40分近くかかった。
地図上で10分の距離である。

07380927b
爺ヶ岳。左下に雪に埋まった冷池山荘が写っている。

07380909b
雪庇。

R103162611031820
冷乗越から剱岳。

冷乗越からは爺ヶ岳の登りである。
ラッセルから解放される代わりに強風の洗礼を受ける。
ワカンを外し、アイゼンに履き替える。

07380920b
爺ヶ岳の登り。

07380917b_2
連山の向こうに頸城山塊。

R103163811031820
稜線上は絶えず強風が吹いている。

登りの、一歩一歩が辛く、苦しい。
息も絶え絶えに、爺ヶ岳の南峰に着いたのが11時37分だった。
冷乗越から3時間も掛かってしまった。

R103166711031820
爺ヶ岳南峰。向こうに剱岳。

ここからは下るばかりである。
下りてしまうと鹿島槍ヶ岳は見えなくなってしまう。
今一度、その姿を見る。
曇ってはいたが、鹿島槍ははっきり見えた。
美しい姿だった。厳しく、冷たく、凛と立っていた。
もっと感動するかな、と思ったが、相変わらず感動は薄かった。
それどころか、昨日本当にあの頂に立ったのだろうか、なんて思ったりした。

07380925b
剱岳。

07380922b
鹿島槍ヶ岳。

下りは早い。
1時間で一昨日の幕営地、ジャンクションピークに着いた。
ようやく風から解放され、ここで大休止。
樹林帯に入り、またツボ足が始まったが、下りは楽である。
いつの間にか空はどんより雲に覆われ、雪が降り始めた。
一度、尾根を間違えて沢側に下りてしまって時間をロスしてしまった。
それでも最後の沢部分は一気に尻セードで滑り降り、登りで2時間半費やした所を5分ほどで下りた。
15時22分にアルペンラインの舗装路に出る。
下りてきたら、雪は雨へと変わっていた。

R103167811031820
“沢側に迷い込まないように”とわざわざ書いてあるのに、迷い込んでしまった。

アルペンラインに積もっていた雪はあらかた溶けてしまっていた。
雨に打たれながらとぼとぼと歩く。
傍らを何台かの車とバスが走っていった。
アルペンライン開通に向けての準備かなにかなのだろう。
16時42分、冬季ゲートに到着。

R103169111031820
冬季ゲート到着。

(終わったな…)
今回も過酷な登山だった。
恐らく、自分独りの力でできる、ギリギリのところだったと思う。
天候も良く、素晴らしい景色に恵まれ、まさに思った通りの登山だった。
ただ、ついにオレの心が晴れることはなかった。

それでも、オレは、頂を目指した。
なぜなんだろう、と思う。
登っている時、眠れない夜、散々、考えた。
いや、今回の山行中、絶えず思考から消えることがなかったと思う。
わからない。
結局、わからない。
でも、もう、わからなくてもいいや、という気分になっていた。

大町市民浴場で体をほぐし、途中のSAでソースカツ丼を食べる。
間違えて新名神に入ってしまったりしたが、0時過ぎには帰宅することができた。
ムスコの寝顔を見る。
気持ちよさそうに眠っている。
自然と顔がほころぶのがわかった。
なんだか笑うのは久しぶりだな、と思った。

22

« 爺ヶ岳南尾根より鹿島槍ヶ岳(1) 2011年3月18日〜20日 | トップページ | 貝塚・二色浜海岸 2011年4月1日 »

登山」カテゴリの記事

コメント

無事でお帰り何よりでした( ̄ー ̄)ニヤリ
あっちゃんの寝顔見たら落ち着いたでしょうね( ^ω^)おっおっおっ

kosiziさん、いつもコメントありがとうございます。

>あっちゃんの寝顔見たら落ち着いたでしょうね

やはり子供の寝顔は最強ですね。
あと何年最強でいてくれるのかわかりませんが。

お疲れさまでした。すごい景色ですね。私も行きたくなってきた…

私も単独の時にチキンラーメン持って行って吐きそうになった事あります。
なんでやろ? 緊張のせいかなぁ?

はんていさん、コメントありがとうございます!

>私も単独の時にチキンラーメン持って行って吐きそうになった事あります。

お、はんていさんも経験ありますか。
私の場合は極度の過労が原因かと。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 爺ヶ岳南尾根より鹿島槍ヶ岳(1) 2011年3月18日〜20日 | トップページ | 貝塚・二色浜海岸 2011年4月1日 »