ね・眠れねぇ…
1月7日、私は自宅の布団の中で眠れない夜を過ごしていた。
前日の夜、突然決まった週末の八ヶ岳登山。
それを思うとワクワクして眠れないのだ。まるで遠足前夜の小学生である。
長かった年末年始の過酷な労働。
それもようやく落ち着き始め、週末は毎年恒例の年始の挨拶に行くはずだった。
しかし6日晩に嫁さんの実家からその日は都合が悪いと電話が入った。
もう一日の休みはムスコを連れて金剛山、と考えていたが、ムスコもお泊まりで遊びに行くとのこと。
降って湧いたような2日間の休み。
私はすぐに山岳会の山友にメールを送ってみた。
するとShigeoさん、Chikaさん、ふるぽんが八ヶ岳へ行く、と。
早速便乗させてもらうことに。ただし三人は7日晩出発、私は1日遅れて8日晩の出発である。
睡眠不足ながらも、仕事が終われば八ヶ岳、と思えばテンションも上がる。
私はすごい勢いで仕事を終わらせ、帰宅後すぐに車で八ヶ岳へ向かった。
23時、美濃戸口到着。思ったよりずいぶん早く着いてしまった。
(とりあえず仮眠するか)
前日はあまり眠れなかったし、車中で少し眠って出発しようと考えた。
ね・眠れねぇ…
外は満天の星空だった。そしてすぐそこには雪を纏った八ヶ岳。
それを思うと目が冴えてしょうがない。
(これは眠れそうもない…)
私は仮眠を諦めて、出発準備をした。1時30分、出発。
私が初めて八ヶ岳を訪れたのが2007年2月。今から4年前である。
ちなみにその時の山行記録が、コレ。
http://cholio.cocolog-nifty.com/blog/2009/10/200721012-ea85.html
久しぶりに読んでみるとずいぶん若々しい。今回2度目の八ヶ岳である。
2時半過ぎ、赤岳山荘に到着。ベンチがあったので腰を下ろして休憩。
そういえば前来た時もここで休んだ。前回は別になんとも思わなかったが、今回はずいぶん遠く感じられた。
しかしこの先まだ2時間以上歩かないといけない。いくぶん、げっそり。

赤岳山荘にて。

気温、−10度。
さらに1時間ほど車道を歩き、堰堤広場に着いた。
しんどい。星の撮影がてら休憩しよう。コーヒーを沸かして体を温めよう。
星を見ながらカメラをセットする。しかし下の方の星が見えない。
なんでだ?
コンタクトレンズの具合が悪いのかと思ったが違った。ガスで見えないのである。
(ありゃあ。山の方はガスやなぁ。そういや天気予報で朝方少し曇る言うてたっけ)
あまり気にせず出発。5時半に赤岳鉱泉に着いた。

赤岳鉱泉到着。美濃戸口から4時間もかかった。
さて、と。
とりあえず先行している3人のテントを見つけなければ。
しかし辺りはテントだらけ。一応電話を掛けてみるが、でない。(そりゃそうか)
30分ほど彷徨い、ようやく見つけた。
雪に刺さっているピッケルに貼られた「KoDaC」のロゴ。
テントの中で起きている様子なので、声を掛けるとShigeoさんが顔を出し、
「おお?チョリオくんか?」と答えてくれた。
合流できた。はあ、と安堵の息をついた。

Shigeoさん・Chikaさんテントとふるぽんのテントの間に張らせてもらった。
テントを設置し、しばらく休んで7時半。赤岳目指して出発。
だが、みんなあんまり元気がない。天気があまりよくないからだ。
「チョリオが来てから天気が悪くなった…」
「昨日はあんなに天気が良かったのに…」
「天気予報は晴れだったハズだが…」
…なんということだ!まるで私が悪天を引き連れてやってきたとでも…!
たぶん、そう。わっはっは。ごめん、だってオレ、雨男やもん。

小屋の前はすごい人混み。

Shigeoさん。
8時過ぎ、行者小屋に到着。しばし休憩。
天気は依然、よくない。文三郎尾根を登る予定だったが、
小屋が近く、風を防げる樹林帯の多い地蔵尾根を選択。

元気なふるぽん。

樹林帯を行く。

ハア、ハア、ボク、もうダメです…(ふるぽん)チョリオくん、それ、ウソやで(Shigeoさん)

バレたか。さすがはパートナー、お見通しだ。


ちょい難所。

晴れていれば霧氷のきれいな所なんだがなぁ…
森林限界を越え、道は厳しくなる。風も強く、気を抜けない。
(こっからはペースを落として…)と思っていたら、大渋滞。否応なしにペースは落ちた。

渋滞しとるで〜!

止まっている時間の方が長いほどの混雑ぶり。おかげでゆっくり撮影できる。

9時40分、地蔵の頭・稜線に到着。ブラックジャックみたいなっとるな。

特撮ヒーローみたいに見えなくもない。

燃えたよ…燃え尽きた…真っ白にな…(ジョーーー!!)はい、天望荘到着。
赤岳天望荘に着き、当然のように休憩。
コーヒーを飲み、タバコを吸い、菓子を食べる。
外の天候がウソのように、まったりとした時間が流れる。
天候はますます悪化しているようで、来た時よりも風が強くなっている。
私は一応、Shigeoさんに訊いてみた。「頂上、どうします?」
Shigeoさんはニコッと笑って、小さく頭を振る。こういう時のShigeoさんはとってもカワイイ。

まったりタイム。

小屋内で記念撮影(軟弱)
1時間以上小屋で過ごし、11時過ぎにようやく出発。

やっぱり元気なふるぽん。


下りも混雑。

Chikaさん。


樹林帯に入った所でシリセード。

よっしゃ!これから先はラッセルで下りるぞ!
Shigeoさん、踏み跡歩いてもラッセルならへんやないですか…?

コケるChikaさん。

Shigeoさ〜ん!嫁さんコケてますよ〜!
ラッセルの3人を尻目にどんどん先行するShigeoさん。

目にツララができました。

ラッセルトレーニングの次は滑落停止訓練を行う!
…Shigeoさん、ラッセルしてなかったやないですか…

こうするんじゃ〜!(Shigeoさん、結構上手いです)

よ〜し、ボクも!(ふるぽん)

ダメだ!足が着いてる!

よ〜し、私も!(Chikaさん)

いやぁん♡

どれ、私も…(Chikaさん写)

アカンわ…(チョリオ)

こうッスか!?(ふるぽん)

どう!?(Chikaさん)

アカンわ…(チョリオ)

Chikaさんの荒技、仰向け後方落ち!


すごかったッス!!
厳しい雪上訓練を終え(どうも途中から単なる雪遊びになっていたような気もするが)テン場へと戻る。
「チョリオさん、時間あるしアレ、どうッスか?」
ふるぽんの指さす方には人工氷壁、アイスキャンディー。
「おお、いいな。やってみっか!…その前にメシな」
徹夜明けで朝から山に登り、ほとんど何も食ってない。私は猛烈に腹が減っていた。

赤岳鉱泉小屋でマレーシアカレーを食す。ずいぶん待たされたが美味かった。

アイスキャンディーとふるぽん。後ろの方は知り合った男性(ベテラン)
社交的なふるぽん、さっそく見知らぬ男女と仲良しに。一緒にさせていただくことになった。
二人ともアイスクライミング用のアイスバイルを持ち、本格的だ。
一方、こちらの二人はShigeoさん、チカさんにピッケルを借りての挑戦。
ふるぽんは先週ジョウゴ沢とかいうとこでアイスクライミングデビューしているが、私は全くの初心者である。
まず、ベテランチームの女性が登る。男性がビレイ。素人チームは見学。
実際に見てみると、思ったより大変そうだ。ベテラン男性がビレイしながらアドバイスを送る。
女性はかなりの苦戦を強いられながらもなんとか登りきった。
お次はベテラン男性。同じルートを留まることなく、スムースに登ってしまった。
出番だ!ふるぽん!
ロープを受け取り、私がビレイ、ふるぽんが挑戦。
(頼むぞ…!ふるぽん。素人チームの意地を見せてやろうではないか!)
しかし彼は少し登ったところでアッサリ「すんません、下ります」
(な…何ィ?)
(連敗はできぬ…)
得も言われぬプレッシャーが私を襲った。
(しかしやらねばならぬ…)
私は見よう見まねで右手に握っているアックスで氷を打った。
うまく刺さると力を入れても抜けない。
(なるほど…!)
次は左手。次に右足、左足。
ピッケルは刺さるがアイゼンの前爪は蹴りこんでも刺さらない。
それもそのはず、私は前爪は研いだことがなく、まん丸に摩耗している。
足の方は適当な所で乗せていくしかない。必然的に腕の方に力が入る。
しばらく攀って、私は失敗に気付いた。左手にShigeoさんのピッケルを持っていたのである。
右手にはChikaさんのピッケル、当然、Shigeoさんの方が長く、重い。
短い方が狙いがつけやすく、長くて重ければ、狙った所にいってくれないのである。
途中から左手に握ったShigeoさんのピッケルがなかなか思い通りに動かせず、かなり苦労した。
それでも、なんとか登りきり、素人チームの意地を見せることができた。

ベテラン男性のアイスバイルを拝借してご満悦のふるぽん。2本目はコレを使って見事成功。

私も2本目。左手のピッケルはShigeoさんのから自分の軽いピッケルに持ち替えた。

よっこらせ、っと…
「チョリオさ〜ん、ロープ引っかかってるんで直してくださ〜い」「お前、そんなこと言われてもな…」

よっ…と。これでええやろ?

こりゃ、なかなか楽しいな。

「チョリオさ〜ん、その辺でいいですよ〜」

そんなこと言わんともう少し…

よっしゃ!

ベテラン男性の華麗な攀り。

氷に描かれた赤い印はルートだった。私は何も知らずに無視して攀っていた。

記念撮影。(ふるぽん写)
3本目は間を開けずに登った。が、左腕に力が入らず、回復しないので敢えなく敗退。
折角アイスバイルを借りての挑戦だったのにもったいないことをした。
アイスクライミングを楽しんだ後、ベテランチームと別れてテントに戻った。
ちょうどShigeoさん・Chikaさんのテントで夕食の準備が整い、お邪魔させてもらった。

ビーフシチュー、激ウマ。

Shigeoさんは、この日が誕生日!お祝いの紅白饅頭。

おい、足ジャマやな…

かなりアツアツでした。

熱く語っている最中の私。
宴は21時過ぎまで行われた。楽しい夜だった。
寝るのが惜しかったが、さすがに私も眠い。かなり眠い。
外に出ると雪だった。明日朝、もし晴れればふるぽんと硫黄岳往復しようと約束したが、
こりゃどうもダメかな…トイレを済ませて自分のテントに戻り、またたく間に眠りに就いた。

テントの外は雪だった。

便所の窓にできた氷の模様。

結構積もっている。
===続く===