六甲全山縦走大会 10年11月14日
(はぁ…長ぇ)
私は通勤の電車の中で地図を広げていた。六甲全山縦走大会のコースを見る。
須磨をスタートし、宝塚をゴールとするそのコースの長さは56kmだそうだ。
(なんで全縦なんか申し込んでもうたんやろ…)
歩いてもいないうちから少し、げっそりした。
私は大阪に生まれ育ちながらも、六甲にはあまり縁がない。
育ったのが南部だったせいか、山と言えば生駒山や金剛山だった。
山を始めてからも六甲はやはり縁遠く、もっぱら奈良の大峰・台高の山々ばかり登っていた。
六甲山。やはりロープウェイや道路が通っているせいか、
自分の足で登ってみたい、という気にはならなかったのかもしれない。
ところが去年、山の会・囲炉裏で行われている、六甲全縦後の宴会にだけ参加した。
疲れ果てながらも笑顔でゴールする人、それを迎え、労う人。
それを見て、(ああ、ええなぁ)と思った。
で、(来年はオレも…)と思ってしまったのが運のツキだ。
再び地図に目を落とし、コースの確認をする。
その時、あることに気付いた。
(そうか、全山縦走路は山頂は通らへんねんな)
暫く考えて、私は全部の山頂を踏んでいこうと思った。
(きっと紅葉もきれいやろうしな…)
丹念に山頂を踏み、これまで縁遠かった六甲を十二分に満喫する一日にしよう、
そう思うとちょっとやる気が湧いてきた。
山仲間のひい姉さんから連絡があったのは全縦の前々日である。
“私の家に来ると、車で送れるので早く出発できるよ”
というような意味のメールだった。
私は当日、始発で須磨まで行こうと思っていたが、それだとスタートが6時半になる。
大会のスタートである5時から1時間半も遅れてしまうなあ、思っていた時の助け船である。
ありがたや、やはり持つべきものは友達である。
前日の20時半、ひい姉さんのお宅にお邪魔させていただく。
“お構いできませんよ”
という言葉とは裏腹に、おいしいケーキにボリューム満点のサンドイッチをごちそうになった。
満腹である。少しお腹が苦しい。
ひい姉さんのお宅からは夜景が眺められる。
ボリューム満点のサンドイッチ。2ついただきました。
さらには寝床まで…アレ?布団が2枚…こ、困ります、お姉さま…
というのはもちろん冗談で、もう一つの布団はもう一人の縦走者、もっちゃんさんの分です。
寝床まで整えて下さいました。私ともっちゃんさん(男)の分です。やましいことはございません。
0時過ぎにマユさんが車でお迎え。
途中駱駝さんも乗せて、須磨浦公園に3時過ぎに到着。
もう既にスタート待ちの長蛇の列ができていた。
ずっと(なんでこんな早いんやろ…)と思っていたが、これで納得。
みんな気合いの入り方がハンパやない。
囲炉裏の人達もすでにたくさん集まっていて、我々も合流した。
真夜中だというのにやる気満々、熱気が溢れていた。
やる気十分、の囲炉裏隊。
須磨スタート地点の囲炉裏隊。
一方私は、トイレで産みの苦しみを味わっていた。
(出ねえ…)
ひい姉さん宅で一度、須磨に来て二度、軽量化を図ったのだが、失敗に終わった。
そんなに焦って出すこともないのだが、ひい姉さんとこでがっついたせいか、どうも腹が落ち着かない。
それに今回は大勢の人がいるので登っている最中に…なんて望めそうもない。
それが余計に焦りを生んだのであろうか。
(ちぃ、とんだ“恥ずかしがり屋さん”につかまってしまったぜ…)
私のウ○コ事情にスタートを遅らせてくれるはずもなく、定刻5時にスタート。
大勢の人々が作り出す波に私も乗って歩き出す。
最初は急登、急階段。少しでも前に出ようとする人、早くもしんどそうな人…
(あ、夜景…)しばらく登ると街の灯りが見えた。私は列を離れて撮影。
(この辺りに鉢伏山の山頂があるはずだが…)注意して歩いていると山頂に行く別の道があった。
その道に入ると…静かだった。当たり前だが。
誰もいない暗い山道。(夜間登山はこうでなくてはなぁ)とほどなく山頂。
スタート。
急階段を登っていく。
夜景が見えた。
鉢伏山。地図では248mとなっているが?
鉢伏山を下りるとすぐにまた大勢の人々の列にまぎれる。
しかし旗振山、鉄拐山と寄り道を繰り返すにしたがい徐々に人が減ってきて
高倉台の街に降りる頃にはまばらになっていた。
大勢の人が暗闇の中を歩いている様はちょっと不気味だ。
シャシャンボという名の樹があるらしい。
高倉台の街中を歩く。
歩道橋を渡るとまた渋滞ができていた。栂尾山の登り階段だった。
それを越えると横尾山、その先は須磨アルプスである。
馬の背付近は特に大渋滞。しかし須磨アルプスはちょっと面白そうなところだ。
静かな時にまた来てみたいと思った。
歩道橋を渡ると…渋滞だった。
横尾山からの眺め。ちょうど日の出の時刻くらいだったが、あいにくの曇り空。
須磨アルプスは大渋滞。
立ち止まってくれた方が写真は撮りやすいか…
馬の背を越えると東山。
須磨アルプスを振り返る。
須磨アルプス、東山を越えるとまた市街地へ。
渋滞もなくなり、紅葉を撮りながらぶらぶら歩く。
妙法寺を過ぎると今度は高取山の登りが始まる。
高取山に登ると荒熊神社の幟が目に入った。縦走路とは別の登る道がある。
(山頂はこっちか)登っていくとほどなく山頂。
そこで少し休憩。ちょっと一服。やれやれ。
縦走路に戻って少し歩くと、また高取山山頂の標識があった。
見るとすごく長い階段、さっきの所よりもあきらかに高そうだ。
(?あれ…?)仕方なしに登り始めると、後からおばさんが親切にも
「そっちじゃないですよ!」と声を掛けてくれた。
「ええからええから」と返事をしてヒイヒイ息を切らせて階段を登る。
(こんなことやったらさっきタバコ吸わんかったらよかった…)
登りきると小さな広場と山頂の碑。ハイ、撮影、と。
東山を下りる道にて。紅葉がきれいだった。
荒熊神社の境内。
高取山の山頂、のはずが…?
ちょっと嫌な気分になる長い階段が。
どうやらこちらが本当の山頂らしい。
高取山から神戸方面を望む。
高取山を辞し、縦走路はまたまた街中へ。
(またアスファルトかぁ、靴が減るなあ)
私の靴はいつもの登山靴である。冬のアルプスも、夏の低山も、ずっとこの靴である。
六甲全縦は街歩きが多いと事前に聞いていたので
ハイキングシューズが欲しかったのだが、結局買えなかった。
(それにしても…)
なんだか山登りというよりJRの“てくてくウォーキング”みたいや…いや、参加したことないんやけれど。
鵯越駅を過ぎ、ようやく山歩きの様相を呈し始める。
この辺りで囲炉裏のhidetyanさんと出会った。
hidetyanさんは始発で来ているので6時半スタートだったはず。
だが5時発の私を追い抜いて小走りで颯爽と行ってしまった。
(元気なオッサンやな)
次の山は菊水山。最初のチェックポイントがあるところだ。
入る時は“押忍”かな、やっぱり。
蔦も見事に紅葉。
鵯越駅付近。
ようやく山の中へ。
菊水山の登りはけっこう堪えた。
登り詰めるとチェックポイント菊水山。9時45分。
さっき抜いていったhidetyanさんとアウタースキーさんがいた。
10時まで休憩し、さらに進んで鍋蓋山。
ここではおむすびを一つ食べた。
この先はまた紅葉がきれいで、大龍寺辺りで缶コーヒーを買って写真を撮っていたら
「チョリオくん」と声を掛けられた。
あっ!mayumiさんやないですか!「この先にみんなおるよ」と教えていただいた。
どうやらmayumiさんはそことここの間を行ったり来たりして、
囲炉裏のメンバーを見つけては休憩場所を教えているらしい。ご苦労様です。
菊水山の登り。けっこうきつい。
「菊水山」と書いてあるのだろうが、全く読めない。
鍋蓋山の登りもしんどかったな。
いい雰囲気のご夫婦。ダイエット登山かな?
鍋蓋山でちょっと腹ごしらえ。
ちなみに上2つのおむすびは私の作。下2つはひい姉さんにいただいたもの。
鍋蓋山の下山路で見かけた見事な黄葉。
大龍寺付近にて。
大龍寺では囲炉裏サポート隊による温かい激励があった。
噂には聞いていたが、これほどまでとは。
あんまり居心地が良いのでちょっと寝ていこうかな、思ったくらいである。
ここで後発のsmochさんに出会う。
「年々、しんどなってくるわ」と言いつつ、軽快な足取りで先行。
(元気なオッサンやな)
豊富な食料。思わず食べ過ぎてしまった。
サポート隊のりっこさんと。
大龍寺付近は本当に紅葉が見事だった。
紅葉の下を行く全縦者。
桜茶屋を過ぎる。
(おお、ここは見たことある)
そう、4度あった囲炉裏での六甲全縦練習会に、一度だけ参加した際、通ったのだ。
この先からは宝塚までは、こないだ歩いた道だ。
歩きやすい道とはいえ、やはり通ったことがあるのとないのとでは随分違う。
とはいうものの、まだ行程の半分も歩いていない。とほほ…
稲妻坂やら天狗道を通って摩耶山へ向かう。
急登でもないので紅葉を愛でながらのんびり歩く。
それでもここまで歩いてくると、さすがにしんどい。少しの登りも億劫になってくる。
摩耶山には2つめのチェックポイントがあり、囲炉裏のサポート隊もいるはずだ。
(もうちょっとで摩耶山だ)と思った時、「山頂コチラ」の案内板が。
(しんどいんやから、こういうのん止めて欲しいねんな…)
と思いつつも縦走路から離れ、摩耶山頂へ。
山頂には誰かのお墓(?)らしきものがあった。
摩耶山ではサポート隊の蓮さんとpikkuさん、先行していたmayumiさんと空っ風さんがお出迎え。
(いやあ、落ち着くわぁ)
「あまり食べ物がなくてごめんなさいね」と済まなさそうにおっしゃる蓮さん。
いやいや、そんなことないッスよとpikkuさんの剥いてくれるリンゴとみかんを頬張る。
これが無性に美味い。
(ビタミン不足かな…この分では自作のおむすび、食べられへんな)
と思いつつも、見境なく食べる。
貧乏根性丸出しのところにコウリさんとよっちゃんさんが到着。
よっちゃんさんはちょっとしんどそう。
mayumiさんが「ゆっくり休んで、食べた後はしっかりマッサージして…」
と細かいアドバイスをしていた。
「mayumiさん、私にもなんか、アドバイスして下さいよ」
と言うと、私の方をチラッと見、面倒くさそうに
「歩け。そのうち着く」とおっしゃった。
なんと明快かつ、的確なアドバイス。
お腹もいっぱいになったし(食い過ぎ)ぼつぼつ行くか。
掬星台からの眺め。
摩耶から先の道は穏やかな歩きやすい道で、紅葉がまっ盛りだった。
全縦者に混じって観光客も増えてきた。
(これほどきれいな紅葉に出会えるとは)
曇り空から時折西日が差し、逆光にますます紅葉が映える。
(美しい…)
フィルムカメラを持ってくればよかった、と少し思った。
もちろん分かっていても、そんな重いものは持ってこないだろうけど。
はやぽんさんと出会った。
紅葉オンパレード。
T字ヶ辻を過ぎると、観光客がますます増えてきた。
おしゃれな建物もいっぱいあるし、山の中とは思えない喧噪だ。
郵便局で甘酒を頂戴して、さらに進むと徐々に観光客が減ってくる。
車道から少し外れて六甲山山頂へ。
六甲縦走なのだから、これを外すわけにはいかない。
ちょうど日没の16時半頃で、うまい具合に雲が切れてきれいな夕陽が拝めた。
寂しい山頂でゆっくりタバコを吸って、しばしまったりとした気分を味わった。
郵便局でおいしい甘酒をいただいた。
翌日の仕事を思い出してしまったのは誤算だったが…
六甲山最高峰へ。
阪神大震災で12cm高くなっていたとは知らなかった。
いつの間にか晴れて月が出ていた。
六甲山頂を辞して一軒茶屋に立ち寄ると、
先程抜かれたコウリさんとよっちゃんさんが休んでいた。
よっちゃんさん、足がつらそう。大丈夫かな?
みかんをいただいて先に行くと囲炉裏のバンダナが。
たかちゃんさんがこんな遅くまでサポートしてくださっていた。
甘いパインをいただくと、生き返るような気分。ありがとうございました。
最後のチェックポイント、東六甲分岐に着いた時には、かなり暗くなっていた。
遅くまでサポートして下さっていたたかちゃんさん。ご苦労さまでした。
最後のチェックポイント東六甲分岐。それでもまだ13kmもあるんですけど…
ここからはヘッデンを点ける。
まばらだった人々も、ここに来て再び渋滞に。
山の静けさとは裏腹にざわざわと喧噪が耳に付く。
「順番入れ替えよ。ライト持ってきてない人を交互に入れて…」
ほう。ライト持って来てないのか。なかなか剛毅な若者達だ。
とっとと降りてしまおうかとも考えたが、いちいち追い抜いていくのも面倒くさい。
私もそのまま渋滞に巻き込まれることにした。
私の前を歩いていたのはグレーのジャンパーを羽織ったおじさんだった。
足をだいぶやられているらしく、歩き方がぎこちない。
ずっと前の方にいる赤い服を着た人が、どうやら私を含む集団の一番先頭のようだ。
赤シャツ(と勝手に名付けたが)の歩き方は、
それはもう哀れなほどギクシャクしていた。
どうやら膝が殆ど曲がらないようで、油の切れたロボットのようだった。
私は失礼にも、ちょっと笑ってしまったが、
(でもきっと、オレも雪山の帰りとかはあんな風なんやろな)と思い、
(がんばれ!赤シャツ!)と心の中で声援を送っていた。
大平山を越えた車道で、溝に足をつっこんで一休み。
列に戻ると、今度の先頭は白い服の人(命名白シャツ)で、
白シャツも赤シャツに負けず劣らずのロボットぶりだった。
(それにしても、塩尾寺ってこんなに遠かったか)
練習会の時にはすんなり到着した感があったが、
この時はずいぶん長く感じられた。
(エンペイジはまだか?)
実はこの時、さすがにけっこう疲れており、
寄り道するはずだった譲葉山や岩倉山をすっとばしている。
というより、まっ暗でもはやどこを歩いているのかも、よく分かっていなかった。
(まだかペンペンジ!)
しまいには呼び名まで変わってしまっていた。
ようやく塩尾寺を過ぎ、一安心。
(ああ、もうちょっとや)
縦走路は宝塚の街中へ。ふと、前から知った顔が。
囲炉裏のメンバー達だった。
「チョリオさん!あんまり遅いから心配したよ」とひい姉さん。
「…え?ほんまッスか?すんません」
「チョリオさん、メールしたのに」と一休さん。
「いや、電源落としてるから…」
といった会話の後、彼らは上に、私は下に。
今朝一緒だったのに、なぜかもう懐かしい。
塩尾寺下からの夜景。
そしてようやく、ゴール。20時7分。
やれやれ、15時間もかかっちまったわ。
ゴールではkeyさんがお出迎え。
記念の賞状と小さな箱をいただいた。
甘いものが食べたくなっていた私は、箱の中身が紅白まんじゅうだったらいいな、
と思っていたが、開けてみると小さな盾が入っており、少しガッカリした。
keyさんのお迎え。すいません、ブレました…
ようやく、ゴール。
そして仲間の待つ宴会場へ。
そこではもう皆さんのお世話になりっぱなし。
温かい豚汁に山雀さんの淹れて下さったおいしいコーヒー。
まあまあ元気だと思っていたのだが、
椅子に座って温かいものをお腹に入れると急に眠気がやってきた。
「須磨アルプスの馬の背がねぇ…」なんて会話がやたら遠くに感じる。
(ああ、そんなとこあったなぁ。もう昨日のことのようだ…)
心地よい疲れを感じながら、ぼんやりした頭で一日を回想する。
ゴールした時には、さほど感動しなかったが、
じわぁと嬉しさが沁みだしてきた。
(六甲もなかなか、ええ山やったな)
私は幸せだった。
宴会会場、上からの図。
この豚汁は本当に美味かった。
宴もたけなわ。
今年も最後尾でサポートのmayumiさん。すいません、ずいぶん暗く写ってしまった…