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2010年2月10日 (水)

厳冬期の八経ヶ岳・日帰り/単独 10年2月3日

 こらイカンわ。今シーズン、霧氷5連敗中。年末の武奈ヶ岳以降、ことごとく霧氷に裏切られ続けている。霧氷の付いた時は曇り、晴れた時は霧氷がない。「青空に霧氷」を見たい。ちなみにそれを最後に見たのは去年の10月。立山。もちろん、霧氷を見に行ったわけではなく、紅葉を期待していたのである。

 加えて、なにかムラムラしたモノがオレの中にあった。心がヒリつく山をしたい…持っている力の一滴まで絞るような山をしたい…「バカやってすいませんでした、堪忍してつかあさい」と山に対して謝ってしまうような…思えば、以前の雪山といえば、毎度そんなだった。でも装備が整い、痛い目に何度も遭って知恵もつき、逆にそういう気分を味わうことは稀になった。オレは八経ヶ岳に登ろう、と思った。

 八経ヶ岳。言うまでもなく、近畿の最高峰である。無雪期は結構、手軽に登られて、5歳児を連れて行ってもなんとかなる山なのだが、厳冬期はなかなか手強い。林道は通行止めとなり、川合からのクラシックルート(?)で、通常ならば2日かけて登るのだが、それでもかなりキツい。そこを1日で。単独で。

 前日の2日、嫁さんの帰りを待って夜9時半に岸和田を出発、11時半に川合に着いた。1時間だけ仮眠を摂り、3日の水曜日、夜中の1時に出発した。夜間登山は毎度のことだが、今回の1時発にはワケがある。栃尾辻の先にある1518ピークで夜明けを迎えたかったのである。そこは霧氷のきれいな所らしいのだが、オレは行ったことがない。今年登ってきた山仲間を羨ましく思い、なにがなんでもそこの霧氷を朝の光で見てみたかったのである。

 鼻息荒く出発したが、早々に迷った。926ピークを巻いて進むのだが、えらく酷い道なので一旦戻り、また進んだりしているうちに面倒になり、結局尾根まで直登した。積雪期の道は、無雪期の道と同じとは限らない。無雪期はトラバースする箇所を尾根づたいに進む、ということはよくある。3日前の日曜と2日前の月曜、恐らく雪が降ったであろう。で、前日の火曜は登山者がいなかったようである。踏み跡がない。他人の付けた踏み跡を安易に信用するのは危険なことではあるが、ないのとあるのとは、やはりえらい違いである。

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926ピーク付近で迷う。小雪が舞っている。

 30分だか1時間だか時間をロスして登山道に戻った時、小雪がちらついていた。(またこのパターンか…)天気予報では夜は曇、翌朝からは晴れだった。(まあ、朝晴れてくれたら文句はないが)高度を上げ、辺りは植林から自然林へ。(霧氷、付いてる!)雪も止んでいつしか月が出ていた。(晴れてる!)月の光はかなり明るく、しばしヘッドライトを消して、月明かりだけでトレースのないきれいな雪の上を進んだ。かなりいい気分だった。

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フラッシュを使って霧氷を写す。真ん中に月。

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 栃尾辻に付いたのが5時。避難小屋に入って休憩。川合から4時間。迷った割りにはかなりいいペースだ。しかしオレの気分は沈んでいた。霧である。辺りは真っ白、夜明けのいい景色は望めそうもない。(はあ、なあんか、やる気、なくなったなぁ)八経ヶ岳まではまだまだ遠い。(八経、去年登ったしなあ)雪の八経ヶ岳は去年にも登っている。今回より難関の弥山川遡行だった。(でもやっぱり登りたい)正直、登れるかどうかわからない。辺りはまだ真っ暗だが、あと12時間後の夕方5時、暗くなる前には、またここに戻って来たい。あと12時間。雪のない時で7時間程、かなり難しい。タバコを一本、吸う。ふう。自分の心に訊いてみる。何がしたい?(本当に、登りたいのか?)ああ、登りたい。(よし、では)考え方を変えた。(景色の見えない時こそ、オレは早く歩ける)撮影に時間を取られないからだ。(行こう。絶対、登ってやる。)

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栃尾辻に到着。

 6時半、1518ピークに着いた。ガスは晴れたが、空は雲に覆われている。それでも、辺りは薄明るい。すごい…ええとこや…霧氷が素晴らしい。ああ…日の出、見たかったな…いや、今回はもういいや。さ、どんどん行こう。ナメリ坂を登り、1598ピークを過ぎ、ナベの耳へ下りる。地図で確認…アリャ?地図がない…最後に地図を見た1598ピークに登りなおした。(やっぱここで落としてたか…)

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1518ピーク付近。

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見事な霧氷。背景が青く見えるのは、たぶんホワイトバランスが晴になっているせい。

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最近、デジカメの調子がおかしい。ホワイトバランスはさわっていないはずだが…
しかし、なんとなくいい雰囲気に写っているのでまあええか。(私が見た光景とは随分違うが…)

 この辺りの森は本当に素晴らしい。その樹々に霧氷が付いている。幻想的な光景に時折目を奪われて足を止めた。(ああ…これで青空ならば…)いやいやそれは言わない約束(?)だ。頂仙岳を巻き、手頃な所で休憩を入れた。9時半。歩き始めて8時間半が過ぎ、かなり疲れている。オレな、ずっと考えてたんやけど、コレ、要らんやろ。ズッシリ重い三脚。置いていこう。どうせ帰りもここを通る。悩んだが、ワカンも置いていく。今回雪がサラサラで、ワカンの効果があまりない。

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重い三脚とワカンは置いておく。

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 少し進んで高崎横手出合、更に半時間程で狼平に到着した。狼平には立派な避難小屋がある。その小屋に入り、大きく息を吐き出した。大きな安心感がある。もし、何かあっても、ここに戻ってくれば、という安堵である。カップヌードルを食べ、ゆっくりコーヒーを飲んで、1時間、くつろいだ。交換レンズ、フィルム、ガスコンロ、ゴミをデポしておく。ザックの中の大きな荷物はテルモス、食料、着替えとテントのみである。

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狼平にて昼食。

 11時17分、狼平を出発。ここから積雪がぐんと増した。結構もぐるが、前述の通りサラサラ雪で、ラッセルはそれほどしんどくない。尾根まで登り、東に折れる。基本的に尾根通しに進むが、大黒岩の箇所はトラバースする。12時半、弥山に到着。弥山小屋で少し休もうかと考えていたが、戸が開かなかった。

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弥山に登っている時、ほんの少し、青空が覗いた。

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弥山に到着。

 さあて、あともうひとふんばり。しかし、ここからの積雪量はハンパじゃなかった。猛烈にもぐる。ああ、ワカン、持ってくれば良かったかな…いや、このサラサラ雪では、殆ど変わらないだろう。それに、置いてきてしまったものを今更考えても仕方ない。弥山を下りきり、オオヤマレンゲの保護柵に入る。ああ、夏に来たなあ。ムスコと登った。オオヤマレンゲ、きれいやった。しかし、どれがオオヤマレンゲやろか。わからへん。八経ヶ岳の登りである。夏ならば、花でも愛でながら写真を撮っていたら、いつしか頂上、てな案配だがなあ。今のオレは、腰近くまで雪に埋もれ、頭が少々ボケつつも、ただただ足を動かす機械のようだ。(あぁ、熊でも出てきてラッセル代わってくれへんやろか…)半開きの口で荒い息を吐き、考えとは別に足が動く。いや、思考はほぼ、止まっていた。頭の中では(サル・エテコ・チンパンジ〜♪)の歌詞でボギー大佐マーチが流れていた。(なんでエテコやねん。今やったらマイスタージンガーやろ)と思っても、エテコは頭から離れなかった。

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 エテコに取り憑かれていても、足が動けば前へ進む。進めばおのずと頂上に着く。頂上に着いた。13時22分。オレは膝をついた。荒い息を吐き出しているうちにエテコマーチは頭から消えていき、心の底の方から沸々と、ある感情が湧いてきた。その感情が大きくなると、オレはすっくと立ち上がり、拳を握りしめ、あらん限りの声で、「うおおおおぉ!!」と吼えた。三度、息をついて、「やったったぞォ!オラァ!!」と叫び、今度は五度、喘いだ。泣くかな、思ったけど、涙は出なかった。理由は分かっていた。下山が心配だからだ。手放しで喜べないからだ。記念撮影を済ませ、10分程で頂上を後にした。

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登頂!

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バンダナショットも撮っておく。

 転げるように八経ヶ岳を下り、14時弥山、狼平に着いたのは15時前。デポした荷物をザックに詰め、20分休憩。なんとか、暗くなるまでに栃尾辻に着きたかった。あと2時間。

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今登ってきた八経ヶ岳と、またほんの少し覗いた青空。

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狼平に戻ってきた。さすがに疲労が濃い。

 帰りは自分の足跡があるから、あまり考えず、歩くことに集中できるので、だいぶ楽である。しかし、疲労のため、歩みは遅かった。ああ、荷物デポした所に着いた。三脚とワカンをザックに縛り付ける。ここからは頂仙岳のトラバースや。危ないで。頭ボケとるけど、ちょっとシャンとして歩こう。「ヨッシャ!」と気合いを入れ、危険地帯を慎重に進む。その時。光が増し、あ、と見上げると、青空が出ていた。久しぶりの日光。辺りの沈んでいた霧氷が、生き生きと雪面に影を映した。(うわぁ…)急いでカメラ…と思った。しかし、チラ、と左下を見ると随分な急斜面である。(ここでは、止めとこ)少し気が急きながらも、慎重に歩いて平らな箇所に出た。しかしその時には既に青空はなく、霧氷は死んだような表情に戻っていた。

 ははぁん。これはアレやな。嫌がらせ。判ったわ。天気予報は当たってる。実は晴れているが、この上にだけ、雲がある、ちゅうやつや。何故ならオレは天気運が悪いから。雨男やからな。オレは。山の神サン、オレの上にだけ雲張ってからに。いや。いやいや。スネてるんちゃうで。こんなん慣れっこや。ようあることや。それにもし晴れて見事な青空やったら八経、登られへんかったやろ。写真、アホみたいに撮りまくって時間切れ。視界はあるけど、景色はイマイチ。オレにとっては最高の天気やで。雪も降ってへんし。霧氷の写真は年くっても撮れるやろけど、こんな登山は今しかでけへんかもしれん。な。…いったい、オレは、なにと喋ってるんだ?

 16時44分、1598ピーク。疲労が濃い。そして眠い。もう辺りは薄暗い。あと1時間も経てば真っ暗だ。自分の足跡はあるけれど、まだ嫌な地形は続く。迷ってしまう恐れがある。暗くなる前に、できるだけ進んでおきたかった。しかし、思うように足が動かない。頭がボーっとしている。疲労困憊、雪の上に倒れ込んでしまおうか、と思っている時に、それは来た。向こうの霧氷が光っているな、と思ったら、光はあっという間に広がり、いつの間にか辺りは黄金色に輝いていた。左、西側に沈みかけの太陽が、樹林越しに見えた。その木々が霧氷に斜光をいっぱいに受け、凄まじいまでに輝いている。な、なんという、美しさ…ちょうど、頭がボケていた時である。オレは文字通り、見とれていた。恐らく、口をポカンと開けて。はっ!カメラ!写真を撮るのが随分遅れた。たぶん、ろくなモノが写っていないだろう。たぶん、というのは、そのフィルムはまだカメラの中で、見ることができないのである。

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静かな夕方。西日が差した写真は、出来が良ければ、またそのうちブログに載せます。

 どのくらいの時間かわからない。恐らく、それほど長い時間ではないと思うが、少しでも先に進むという考えを捨て、オレは夢中でシャッターを押した。しかし、凄い光景は最初の数瞬だけで、後は光が弱まり、名残のような光景だけだった。それでもいいから写真を撮った。辺りは暗くなっていた。陽が沈む直前、ようやく山の神サンはオレにいい景色を見せてくれたようだ。貴重な時間を費やしてしまったが、オレは代わりに気力を得た。身体はボロボロのままだったが、心の中の芯の部分に、なにか温もりが点っていた。先程とは、明らかになにかが変わっていた。さあて、行ったろうかい!

 ヘッドライトを点け、自分の足跡を頼りに歩く。1518ピークの登りで足跡が複数になった。はて?さては今日、誰かここまで来て引き返したのかな?これから先は楽になるわい。言うまでもなく、雪の上は一人より、何人かが歩いた後の方が道がしっかりできて歩きやすくなる。しかし、これは自分の足跡だと気付いた。そうや…オレ、来る時地図を落として引き返したんやった…やはり複数の足跡は1518ピークまでで、その先はまた、一つの足跡があるだけだった。

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希望の足跡。もちろん、自分のつけたものだ。

 もうすぐ栃尾辻、というところで、左のアイゼンが壊れた。アイゼンが壊れるなんて聞いたことがない。慌てて調べてみると、ジョイント部分の金具がなくなっていた。そんな小さな金具を見つけ出すなんて無理な話で、オレはそのまま栃尾辻まで歩き、小屋に入った。

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まさか、アイゼンが壊れるとは…

 はあ、やっと避難小屋に着いた。この時の安堵感はかなりのものだった。この先は積雪も減り、歩きやすいし、道も分かりやすい。危険箇所もない。あと4時間、いや、もしかしたら3時間くらいで着けるかもしれない。コーヒーを沸かし、タバコを吸いながらオレはヤレヤレという気分に浸っていた。

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栃尾辻からは左足にワカンを履いた。

 ヤレヤレどころではない。このくたびれきった身体で3時間歩くというのは拷問に近い。栃尾辻からはいくつかコブがあり、何度も登り返さないといけない。それはもう、しつこいくらいに。恐らく、いつもならなんでもないような登りだろう。しかし、今のオレには大変な重労働である。やっと下りだと思ったらまた登り。いつまでたっても高度を下げない高度計に「おまえ壊れてるんちゃうか」と八つ当たりする始末。登りの時は3歩進んで肩で息をし、下りの時は1歩ごとに足の痛みに顔をしかめた。

 22時半、やっとの思いで川合にたどり着いた。這々の体、という言葉がピッタリ、杖に体重を預けてヨボヨボと歩く姿は瀕死のジイさんのようであったろう。もし村人が見かけたら救急車を呼んだかもしれない。夜でよかった。車に乗り込み、シートに体を預けて、ようやく人心地ついた。(ああ、なんとかやれたな)達成感、少し。小房のラーメン屋で腹一杯メシを食べると猛烈な眠気が襲ってきた。窓を全開にし、顔面をシバきながら運転をして岸和田の自宅に戻ったのが1時過ぎ。翌日の仕事が熾烈を極めたのは言うまでもない。ホンマ、もう堪忍してつかあさい…

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2月2日
2130岸和田・自宅発=2330川合着、仮眠
2月3日
0031起床、準備・0054川合出発=0325鉄塔=0501栃尾辻着、休憩・0553栃尾辻発=06421518ピーク=0945高崎横手出合=1012狼平着、休憩・昼食・1117狼平発=1157大黒岩=1235弥山着、休憩・1250弥山発=1322八経ヶ岳着・1331八経ヶ岳発=1401弥山=1430大黒岩=1455狼平着、休憩・1513狼平発=1546高崎横手出合=16441598ピーク=18281518ピーク=1908栃尾辻着、休憩・1928栃尾辻発=2050鉄塔=2231川合
2月4日
0117岸和田・自宅着

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登山」カテゴリの記事

コメント

大変な登山ようでしたがお疲れ様でした。無事でなによりでした僕らが1月30日に1518のピークに登った時とは大違いの雪深さですね。綺麗な樹氷が見れ良かったですね。

はじめまして、こんにちわ!

夜の雪山それも単独!すごいですね(@_@)

私も同じルートを何度かトレランしてます

昨年12月23日には、
無謀にもランニングシューズで川合から狼平を目指して
栃尾辻手前で撤退しました(≧ロ≦)

毎回自分をとことん追い詰めた山行してますねえ。
次回のレポも楽しみにしています。
荒島岳、おおいに楽しんできて下さい。  ねこ

越路さん、こんばんは!いつもコメントありがとうございます!
>僕らが1月30日に1518のピークに登った時とは大違いの雪深さですね
ええ、二日間で随分雪が降ったようです。狼平からはけっこう大変でした。

nikkor14dさん、こんばんは。初めまして!
走ってるんですか!?
私、走るのは苦手で…歩くのもどちらかというと苦手ですが…
山で走っている人を見ると尊敬してしまいます。

ねこさん、こんばんは。
>荒島岳、おおいに楽しんできて下さい。
ああ!?行かないんですか?
一緒に行けると楽しみにしてるのに…ねぇ、行きましょうよ?

お疲れ様です。

壮絶… ですよね…(^_^;)

私が行った時は軟弱にも栃尾辻で止めてしまって宴会モードに入ってしまいました(笑)
けど、P1518からの眺めは素晴らしいものがありますよね。

帆亭さん、こんばんは!
>壮絶… ですよね…(^_^;)
んー、そうですよね。
私は結構、気楽にやってますがね。えへへ。

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