ぶるる(注1)。
ついにあの男が復活する。
公の場なので名前は伏せるが、仮にケンイチ(本名)としておこう。
かつて全盛を誇った、阿倍野ノジュカーズ。
その隊長を務めていた男である。
ノジュカーズのことは、ほんの少しだけ、このブログにも書いた。
そして今、“大人のノジュカーズ”として何度か活動をしている。
が、かつてのメンバーももうええオッサン・オバハンであり、無茶なことはしない。
私が、唯独り、「我こそはノジュカーズ」とテントを担いで山に登っているくらいである。
1ヶ月ほど前、本当に久しぶりで隊長と会った。
ちょうど私は義弟のユンオと一緒だったので、3人で喫茶店に入り、近況などを話し合った。
「久しぶりに、どっか行くか?」
言い出したのは私だったと思う。ユンオが和歌山にいい海がある、と言い、話しはすぐにまとまった。
すぐにもう一人の義弟、サクライにも連絡、
ついでにペットのチョタローも誘ったが、彼は作戦直前に逃亡してしまった。勘のいいヤツである。
隊長にとっては久々の作戦とあって、やる気満々のようである。
「車はどうする?」「メシは向こうで作るのか?」「海パン持っていく?」などいろいろ質問をしてくる。
私は「メシは…んん…まあ、任すわ」と適当に返事。
「そうか、じゃ、かにうどんでもつくるか」
出た。
かにうどん。
かつて沖縄壱号作戦で隊長が作った(彼は料理隊長でもある)伝説の料理。
いや、もはやとても料理とは言えないシロモノだった。
私はギギギ(注2)言わされるかもしれんな、と覚悟した。
10月5日、夜。
まず私と隊長が待ち合わせ。
彼は「カツオを釣るのだ」と巨大な剛竿とバカでかい荷物を引っさげて現れた。
かなりのインパクト、さすがは隊長、のっけからやってくれる。

ゴツい釣り竿と隊長。インパクト大。
サクライとユンオとも合流、いざ、和歌山へ。
22時半頃に到着し、私とユンオは早速釣りを始めた。
隊長はテントを組み立て、サクライは焚き火用の薪を探しに行った。

今回の野宿処。単なる防波堤。

釣れたのはネンブツダイ。ユンオ曰く煮ても焼いても美味くない、外道中の外道。

火を起こす。やはり野宿に焚き火は必要だ。直にはさすがに起こせないので、七輪を使っている。
あまり釣れない…
一番熱心だったユンオもやる気が失せたようである。
海の上なので風が強く、結構寒い。自然と火に集まってくる。
かくして火を囲んでの宴会モードへと突入。
緩やかに流れる時間。
ぽつぽつと話しをする。
でも、話しがなくても、別にいい。
寝そべって夜空を見ると満天の星。
こうやってぼけぼけする(注3)のが野宿の楽しみの真髄であるように思う。

隊長がホタテを大量に持ってきてくれた。野趣溢れる美味さだ。

火を囲んでぼけぼけする。次第に夜が更けていった。
翌朝。目を覚ますとテントにはすでに誰もおらず、一番最後の起床だった。
外に出ると快晴。暑いくらいである。
いや、私は車に積みっぱなしの防寒着を着込んでいたので、実際すごく暑かった。
ユンオが「イカがいっぱい泳いでいる」というので海をのぞき込む。
きれいな海である。
緑がかった青。沖縄の海みたいだ。
小さなアオリイカが何匹が見える。
私は昨晩、一つだけ買っておいた疑似餌を使い、イカ釣りを始めたが、
イカは寄ってくるどころか逃げてしまって全然釣れない。
早々にイカを諦め、仕掛けを換えて落とし込み釣りを始めた。
エサは隊長が持ってきたサンマの頭。彼は本気でカツオを釣ろうと考えていたらしい。

青い空と青い海。これだけでも十分。

朝の隊長。今、ふとハマムラに似ているな、と思った。誰も知らんか…
テトラの間にエサを落とし込むとすぐにアタリがきた。
釣れたのはカサゴ。何匹か釣れた。ユンオも結構釣り上げている。
しばらく釣りに興じていたが、釣れなくなり、飽きてきた。
そろそろ撤収するか、ということになり、荷物をまとめて車へ。

ネンブツダイ。

隊長。なにか絵になる男である。

けっこう楽しめた。

撤収。
車でユンオおすすめのスポットへ移動する。
まず向かったのは白い岩が印象的な奇岩スポットである。

案内役はユンオ。この辺りには度々訪れているらしい。

思わず、おお、と声を上げてしまう奇岩がいっぱい。
しばらく行くと公園のようなところがあったので入ってみた。
階段があり、登ってみると…
絶景が待っていた。
心地よい風。
白と青のコントラスト。
ただ、潮騒の音だけが…
というわけにはいかなかった。
ちょうど幼稚園の遠足で園児達に囲まれての見物となった。

いい景色だったが…

すでに園児達に占領されていた。

ちなみに同い年な。
再び車で移動。
よさそうな所で駐車し、浜へ向かう。
すでに10月だが、この日は随分暖かかった。
「泳ごかな…」
かつての沖縄壱号作戦で、私は隊長に訊いたことがあった。
「なあ、泳げるかなあ」
沖縄といっても2月である。かなり寒い。
「泳げる、泳げない、ではない。泳ぐか泳がないか、だ。オレは泳ぐよ。」
隊長はキッパリ言った。
つまり泳ぐのは自分の意志である、と。
“精神力で打破せよ”(注4)とは私の好きな、隊長の名言である。
私が火を起こしている間にユンオとサクライが海へ向かった。
しかしやはり寒いのか躊躇している様子。
それでも海に浸かり、戻ってきて火に当たった。
私も海へ。
思った以上に気持ちいい。
しかし陸へ上がると風が冷たい。
やはり急いで火に当たる。

ユンオ。ちなみに海パンを持ってきたのは彼一人だけ。

戻って火に当たる。

私も海へ。

この二人は普通のパンツ。
海で泳いだ後は昼飯。
昨晩のホタテを焼き、隊長がヤキソバを作ってくれた。
どんなん食わされるかと思っていたが、すごく美味い。
「隊長、やればできるやん!」と言うと、
「いや、あの時はいつも酔っぱらっていたから…」
彼は大好きだったお酒を、もうずいぶん前から飲まなくなったらしい。

ホタテを焼くサクライ。原住民のようだ。

爆笑中のユンオ。酒を飲まなくたって隊長の話は面白い。

隊長もご機嫌。

焼きそば、おいしかった。
腹を満たして、辺りを散策する。
ちょっとした岩場で食べられそうな貝がいっぱいいたので、
貝を岩から引き剥がす金具を探しに一旦戻る。
しかし戻ってしまうともう面倒くさくなって、全員昼寝してしまった。

散策に向かうサクライ。

昼寝中のユンオ。随分潮が満ちてきている。

足に波がかかり、驚いてようやく起きた。

またしばらくぼけぼけする。

べつに何もしなくても、それはそれで愉しい。
昼寝後、しばらくぼけぼけしていた。
もう夕方である。ユンオが、「もっかい、ちょっとだけ、釣りせんか?」と言ってきた。
正直、面倒くさかったが、まあ、折角やし、という気持ちもあり、再び釣りを始めた。
防波堤へ行き、落とし込み釣りをする。
ユンオが釣れるポイントを見つけたらしく、何匹か釣り上げた。
プライドなど持たない私も同じ所にエサを落とす。釣れた。
そのポイントにはかなりの数の魚が棲んでいるらしく、一時、入れ食い状態に。
上機嫌のユンオは「SフィールドにMSを集中させい!」と分かる人にしか分からない台詞で笑わせる。
そんなSフィールドも全く釣れなくなった。
ちょうど頃合いである。納竿して車へ向かった。

“Sフィールド”での獲物。

納竿して車へ向かう。
車に乗って、帰りしな。
夕焼けがきれいだろう、と日没の見えそうな所を探すが、見晴らしの良い所に出た時には日が沈んだ後だった。
それでも心地よい風に当たりながら、みんなでしばらく海を眺めた。
私はふと、以前にもこういうことがあったな、と思った。
どこだったろうか。やはり沖縄か。
しかし以前の私なら、こんなにきれいな夕景の時には写真撮影に夢中だったはず。
落ち着いてゆったりなんかしていなかったと思う。
しかし、きれいだ。
私はこれほど気持ちが晴れ晴れするのは、なんだか実に久しぶりのような気がした。
もちろんそれは錯覚なのだが。
ユンオは…ユンオもなんだかしんみりしたような表情で海を見ている。
サクライは、コイツは相変わらずマイペースで、車の中で欠伸をしている。
隊長は…意外にもにこやかに笑っていた。たぶん腹が減って不機嫌やろうな、と思っていたのだが。
みんな変わったと思う。自分も変わっていないつもりでも、やはり変わっているのだ。
それでも、またこうして同じ楽しみを分かち合えたのが嬉しかった。
特に隊長、今日はありがとうな、と心の中でつぶやく。
しかしやはり彼は相当腹が減っていたらしく、コンビニで一人、カップの天そばを食っていた。

注1:ぶるる=身震いする様子。寒い時よりも恐ろしい時、主に使われる。
注2:ギギギ=名作「はだしのゲン」に出てくる。非常に苦しい時に漏れる声。
注3:ぼけぼけする=ぼーっとすること。
注4:精神力で打破せよ=隊長のよく使う言葉。彼はことあるごとにこの言葉を使う。私も好きで、雪山などでよく思い出した。